Masukなっ……。一度ならず二度までも、俺様を邪険に扱いやがった。
どんな女だって俺のこの容姿と名前を聞けば、絶対服従なのに。
なんなんだ、ミューって女は!
このままじゃ腹のムシが収まらねぇっ!!
もう一度扉を開けようと思ったら、さっきの部屋から物凄い勢いでミューが飛び出してきた。
「おいっ、待て!!」
わき目も振らずにあっという間に施設を飛び出し、路地を潜り抜けて全力疾走するミューを、俺は成り行きで追いかけた。
なぜ俺まで走ってるんだ?
ミューを追いかけていると、小さな商店街にやって来た。その一角の小さな店に沢山の人が押しかけている。まるで砂糖菓子に群がるアリみたいだな。
ミューも人だかりの中に居た。
アイツは驚異的な早さで人だかりをくぐり抜け、忍者の如くその中へと消えた。
やがて戦利品らしきものを獲得したミューが、満面の笑顔で歩いて来た。「あぁー買えてよかった!」
なにか買えたらしい。喜んでいる様だ。
「あれっ。まだ居たの?」
俺の姿を見つけたミューが怪訝そうな顔をしている。
「お前が人の話、聞かねえからだっ!」
この俺様をコケにした揚句、振り回しやがって!
「私忙しいのよね。じゃ、話聞いてあげるからこれ持って」
さっきの戦利品を押し付けられた。「落とさないでよ。命懸けで買った御馳走なんだから!」
「お前、俺を誰だと思ってるんだ!!」
召使扱いしやがって!
「知らないわよ。アンタなんか」
「昨日クラブで名乗っただろ! 王雅だ! 櫻井王雅!! 名前聞いたコトくらいあんだろ」
「知らない」
興味もなさそうに俺に一瞥をくれると、ミューは商店街を歩き回って色々買い物を始めた。
「おい待て! 話を聞いてくれるんじゃなかったのかっ」
「はいはい。今忙しいのよ。ちょっと待ってね王様」
「王様には違いないけど、名前は王雅だ!」
「どうでもいいわ、大王様」
「ダッ……大王!?」
「ええ。うるさい大魔王よ」
扱い雑じゃね?
なんだこの女?
ありえねえ。
「おい。今すぐ抱いてお前の方から話を聞いてくれって言わせてやろうか?」
あからさまに嫌そうな顔を向け、汚らわしいものでも見る目つきでミューが俺を見る。
コラ。そんな目で俺を見るな!
「救い様が無い変態ね、アンタ」
「うっ……うるさいな! 大体俺は、女に断られたことがないんだよ!」
「良かったじゃない」ミューは笑った。「初めて断ってくれる女が現れて」
アイツはそう言って、俺を無視して歩き出した。結局話は聞いてもらえず、施設までの間にお徳用トイレットペーパー(おひとり様2個限定)を俺とミューの2人分、計4個も買って、食料品も買い込んで、荷物持ちをさせられた。
くそ……こんなことは初めてだ。
お徳用トイレットペーパー(限定品)を、俺に持たせるなんていい度胸してんじゃねえか! しかも、全然俺のペースで話を進められないなんて!施設に戻ると子供たちが大勢現れ、俺達を取り囲んだ。
「お帰りなさーい!!」
一斉に挨拶された。
まるで、ヤ〇ザの親分の帰りを歓迎する舎弟のように。
「はーい、みんなただいま! 今日の特売、ちゃんと買えたよ!」ミューが俺には見せてくれたこと無い笑顔を湛えて言うと、子供たちが、ヤッター、と大騒ぎ。なんだ?
俺が持たされてる戦利品とやらは、どんなお宝が入っているんだ?
――気になる。
「お前が好きだからだ。キスもしたいし、お前を抱きたい。お前が欲しいだけだ」 ドストレートに言ってやった。回りくどいのは性に合わない。「わっ……私は、そんな不愉快なことしたくない。王雅に抱かれるなんて……」 美羽が伏し目がちに俯いた。――ああ、なるほど。 男女関係になるのが不愉快なのは、恐らく花井のせいだ。 ビジネスとはいえ初めてをあんなジジイに奪われたなんて、屈辱にも程がある。美羽が嫌がるのも無理はない。 美羽と花井が――ああ! 考えるだけで嫌だ!! だから俺の中では無かったことになっている。 あくまでもビジネス――施設を守るために仕方なくやったことだから、ノーカウントだ。 ビジネスに犠牲はつきものだ。 たったひとりで姑息なジジイに立ち向かい、女として一番大切なものを投げ出したんだ。本当にすごいと思う。誰にでもできることじゃない。体張って子供たちを守っているんだ。 俺も危うく花井と同じ卑劣な男になり下がるところだったが、思いとどまって良かったぜ。 心からお前のこと大切にしたいと思うから。 「美羽の考えは俺が変えてやる。つべこべ言わずに俺を好きになれ。全部受け止めて、お前の大切なものもひっくるめて、俺が守ってやるから」「アンタなんか……」美羽はまだ俺を睨んでいる。「怖い顔して睨んでるけど、俺のなにが嫌なんだ? 容姿もいいし、金もあるし、お前の欲しい土地持ちだし、子供たちにも好かれてるし、文句ないだろ。これ以上美羽に合う男はいないと思うけど」「バカじゃないの」「なっ&helli
美羽はトレイに皿、コップ、箸、肉や野菜が切れる専用のハサミ、幼児用のスプーンやフォーク、手拭き、ジュースやお茶の類を乗せたものを素早く用意して、俺に渡してきた。「あの子たちのこと、お願いね」 「いいぜ。任せとけ」 好きな女に頼りにされたら男は嬉しい。トレイを受け取ってガックン達が待つテーブルまで戻った。争奪戦に勝利してゲットした肉や野菜があるから、これを分けて食べさせよう。 「待たせたな」 人数分に分け、皿に盛った肉や野菜を小さく切って子供たちの目の前に置いた。特にガックンの前には、他の子供たちから奪い取った肉をたっぷり置いた。「こんなに食べていいんですか!?」ガックンの目が輝いた。「いいぜ。足りなくなったら、また追加すればいいんだ。たっぷり食べろ」「ありがとうございます! いただきまーす」 ガックンは肉に食らいついた。ちょびっと口元にタレを付けたまま、ガックンスマイルを見せる。「とてもおいしいです!!」「そうだな」 子供たちもスプーンやフォークを使って思い思いに食べている。うまーとかうあー、とか、奇声を発しながら。 子供たちと食べるバーベキューが、こんなにうまいとは思わなかったな。ひとりきりで食べる高級肉よりも、雑多な中で大勢で食べる肉の方が遥かにうまいって、初めて知った。 俺は今まで、つまらない世界で生きていたんだな。金があるから偉そうにするだけで良かったし、思い通りにならないことも無かった。 好きでもない女と肌を重ねても残るものは無く、常に心は満たされなかった。 でも、今は違う。 こんなに心から楽しいって思えるし、嬉しいって思えるんだ。 みんなのおかげなんだな――「お兄
「ほ、ほらっ、こっちは準備できたし、バーベキュー始めるから、アンタも来なさい」 すんでのところで美羽に振りほどかれ、食材がてんこ盛りのところまで引っ張って連れてこられた。 キスはできなかった。「もういい。食いたくねえ」 ブスっとふくれっ面を見せて、プイ、とそっぽを向いた。 俺は、お前が食いたいんだ! この状況で初夜を迎えるのは相当難しいだろうから、キスぐらいさせろって! 「王雅、みんなで食べるとおいしいから、機嫌直してよ」「お前が食わせてくれるなら、食ってやってもいいぜ」「ここはセルフサービスよ」「じゃあ、食わない」「あ、そ。じゃあ勝手になさい」 結局放置されてしまい、野菜や肉を焼き始めた。すると砂糖に群がるアリのように、子供たちはわらわらと集まってきた。火の元へ行かせられない小さい子供を引き受け、用意したテーブルに着席した。 はあ。悲しすぎる。ガッカリ祭りだ。俺様にこの苦しみを味合わせた責任は、絶対に取ってもらうから覚悟しておけよ。 小さい子供をあやしていると、ツンツンとジャケットの裾を引っ張られた。振り向くとガックンが立っている。「お兄さん、これ、食べてください!」 見ると焼けた肉や野菜を持っていた。すぐ食べれるように、焼き肉のタレのようなものがかかっている。「ガックンはもう食ったのか?」「いいえ、まだです」「じゃあ、早く食えよ」「はい。お兄さんに最初に食べてもらおうと思って、取ってきました! どうぞ」 ニッコリ笑顔で、紙皿を差し出してくれた。――うわ、やばい。めちゃ嬉しい。
先ずは宿泊施設とやらに入って、荷物を置いた。予想通りただの広いホールだ。しきりすらない。 電話も無いからチャーターは絶望的。張り切って用意した初夜グッズは全部ボツだ。着の身着のままでヤレと? 上等じゃねえか。こうなりゃもう、成り行き任せだ。 しかし、ここに全員で雑魚寝か……。頭が痛くなる。 手狭でもいいから、せめてもう一部屋あればなぁ。 準備ができるまで子供たちは遊んでおくように伝え、解散させた。 遠くへ行かないよう美羽が注意したが、話半分だった。見渡すと、子供たちはホールに残ったり、外に出て思い思いに遊んでいる。今のところは全員の姿が確認取れている。行方不明になってる子供はいないようだ。 俺は準備係をさせられた。食材を運び込み、あれこれ運搬。重いものはすべて俺様が運んだ。 皿の準備やら火おこしやら、コキ使われた。 美羽は子供たちを見張りながら食材の調理にかかっている。 全般的な運搬や力仕事は俺が担った。普段はインテリ眼鏡(恭一郎)がやっているらしいが、今はいないからぜんぶ俺のところに仕事が入ってくるんだ。 もしかして今日、便利屋代わりに呼ばれたのか? はあぁ。俺、なにやってんだろ。 心の支え――あのウキウキとしたテンションは、一体どこへ行ってしまったのか。楽しみをもぎ取られてしまった今、元気が出ない。文句の一つも口に出すのさえ、もう、なんかしんどい。 俺は、今日この日を迎えるためだけに、必死に頑張ってきたのに……。 この休みを取るのに、どれだけ苦労したと思ってんだよ! 俺様の苦労を返せ――――っ!! あぁ疲れた。 とりあえず机やら椅子やらの準備も終わっ
「なっ……なんだココは――――っっ!?」 現地に到着して俺は叫んだ。「泊りって……宿泊施設(ホテル)じゃないのかっ!?」 マサキ施設を出発して1時間弱。安く借りたという観光バスにガタゴト揺られて、近所の山奥にやって来た。見晴らしの良い草原の中に、ポツンとひとつ公民館のようなものが建っていた。 因みにこの建物以外、他になにもない。大草原が広がっているだけだ。 更に付け加えるなら携帯の電波は圏外。チャーターも呼べねえ。初夜のための準備グッズなどを届けてもらおうと思っていたのに、もう入手不可。まさか県外とは迂闊だった。 想像以上の山奥だったなんて……。 金払って貸し切りにしようと思っていたけど、最初から貸し切りじゃねえか!!「おい美羽、これ……なんだよ」「えっ?」「ここに泊まるのか?」「そうだけど」「へっ……部屋は!?」 特別ルームとかあるようには見えないが、敢えて聞いてみた。「部屋? みんな一緒よ。ホールひとつしかないもの」美羽はあっさり言ってのけた。「なっ……どういうことだよっ。俺とお前の部屋は!?」「大人だけ別の部屋なんてあるわけないでしょ。みんな一緒に決まってるじゃない。おかしなこと言うのね」「そっ……そんな、お前、子供たちの横で初夜っ……俺はいいけど……お前がマズいだろ。もう少し大事にしないと……」 言っとくけど俺、アッチのテク、かなりある方だと思うんだ。経験豊富だし。 だから多
ボロボロの門扉を開けて中に入った。遊戯室あたりで用意しているだろうと思い、そちらに向かって勝手に入っていった。「よお」「あ、お兄さんだぁ!!」 いち早く俺を見つけたガックンが笑顔を見せて飛びついてきた。「来てくれたんですね!」 ガックンはいつも丁寧だ。俺様に敬語を使ってくれる。他の子供たちとは違う、上品な雰囲気がある。頭が坊ちゃん刈りだから、身も心も坊ちゃんのようだ。「お兄さ~ん!!」 俺の背中に飛びついてきたのは、サトルとリョウだ。「よしっ、まとめて来いっ」 俺は背中に貼り付いてきたふたりを担ぎ上げ、人間飛行機で振り回した。キャーキャー言って喜んでいる。ガックンはサトルやリョウよりも年上で少し背が高いから、彼のみ振り回した。 少し回っただけでなんか疲れてしまった。今、寝不足だから体力が少ない。ここ暫く殆ど寝てないからな。 俺は、今日この日のためだけに頑張ったんだ。あまり体力をムダ使いして本番を迎える前にダウンしたら、今までの努力がお釈迦になる。それだけは避けたい。 人間飛行機を素早く切り上げ、遊戯室に散らばっていた子供たちに集合をかけた。「よし、お泊り保育とやらへもうすぐ出発するから、荷物を先に運ぼうか」「はーい!!」「自分の荷物は自分で持つこと。いいな?」「はーい!!」 自分でも思う。すっかり俺もここの先生だ。 叱ったり教育するのは美羽の仕事だが、子供たちと遊んだり玩具をプレゼントするのは俺だから、子供たちから絶大な信頼を寄せられてる。俺がやってくると子供たちがみんな寄ってくるほどの人気者だ。 フッ、誰にでも俺様は人気があるから罪だな。 でも俺は一番に美